腰椎の椎間板・靭帯や骨の変性や椎体のすべりなどでおこる腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症。腰の痛みや坐骨神経痛の痛みしびれで長らく悩んでいる方もいらっしゃると思います。
これらの疾患を訴えていらっしゃる来院者さんは、整形外科で画像診断を受けていると思いますが、画像上の異常所見と違う問題が潜んでいる場合があります。
その1 関節機能障害
関節の動きは大きく分けると二種類あります。一つは自分で動かすことができる随意運動。もうひとつは他動的にしか動かせない運動で「すべり」や「離開」あるいは可動域最終端のわずかな動きがあり、これを「関節の遊び」といいます。
この「関節の遊び」が消失すると、関節の動きに問題が出たり動きによる痛みがでたりします。これを関節機能障害(関節機能異常 Joint Dysfunction)と言います。カイロプラクティックで治療すべき脊椎のサブラクセイションもこの関節機能障害と言えます。
関節機能障害により生じる痛みは、鋭い痛みになることも多く、関節を動かした時にのみ痛みを生じます。この痛みは、同一方向に動かした時に生じ、休息によって関節を動かさなければ痛みは生じません。
関節機能障害は関節だけでなく、筋肉も正常に運動することができなくなることもあり、時に患部以外の部位に関連痛を引き起こします。
特に骨盤(寛骨)と仙骨をつなぐ仙腸関節に関節機能障害が起こると、坐骨神経痛に似た臀部痛・下肢痛がおこることがあり、画像検査でヘルニアや狭窄が見られれば腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症と診断されてしまうこともあります。
この仙腸関節の関節機能障害は腰痛・下肢痛を訴える8割ぐらいの方には多かれ少なかれ存在しています。実際に画像検査で見えている問題による症状も含みながら関節機能障害も同時に存在している場合もあります。
当院で行っているAKS療法は、関節機能障害を関節の「位置」動く「方向」「スピード」を感知する関節のセンサーの異常ととらえ、関節のセンサーを正常に機能させることで関節機能を正常に戻していきますが、この仙腸関節の関節機能障害の回復に大きな効果を発揮します。
その2 トリガーポイント
トリガーポイントは筋肉内にできる痛みを放散する「引きがね点」で、過緊張により疲労の溜まった筋肉に内在する「しこり」「コリ」として存在し、押圧すると押している場所の過敏な痛みとともに押圧箇所以外のところに関連痛を発生させます。その関連痛は症状がひどくなると該当の筋肉が収縮あるいは緊張した時もしばしば感じられるようになります。
腰背部の筋や大殿筋・中殿筋・小殿筋・大腿裏のハムストリングのトリガーポイントの関連痛は坐骨神経痛に似た臀部や大腿への関連痛を発生させます。「立ち上がる」「歩く」という動作で症状が出ることが多い為、画像にヘルニアや狭窄が存在していれば腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症といった診断になる可能性がありますが、本当の原因はトリガーポイントにあるというケースは良くあります。
トリガーポイントの治療は該当の筋肉にアプローチする必要があるので、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の治療ではなかなか治らないという状況となる場合があります。
その3 梨状筋症候群
梨状筋症候群は臀部の深層にある梨状筋の緊張により坐骨神経を圧迫して臀部から下肢への痛みを誘発する疾患です。これも原因疾患として画像検査の結果により、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症と誤診されることが多い疾患です。
治療としは梨状筋の緊張を緩和することも必要ですが、上記の関節機能障害や大殿筋の弱化(協力筋の梨状筋が過緊張を起こす)・トリガーポイントの存在も考えられます。梨状筋の緊張を招いた原因を考慮することも大切で、症状によってはスポーツなどで股関節を捻る動作が多ければ休ませる必要があるかもしれませんし、中腰姿勢や長時間のデスクワークや運転などはまめに休憩をとるなどしなければならないかもしれません。
いずれにしても腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の治療だけではなかなか治ってこない可能性があります。
その4 上殿皮神経障害(殿皮神経障害)
全腰痛の10%前後に及ぶとの報告もある疾患です。上殿皮神経は、広背筋の付着部位である胸腰筋膜や腰方形筋をつらぬいて骨盤の上縁(腸骨稜)からお尻の左右の上の方に分布する皮膚感覚を感知する知覚神経です。神経が胸腰筋膜の緊張による圧迫をうけたり腸骨との摩擦がおこることでお腰からお尻の上の方に神経痛が起こる疾患です。
2017年に放送されたTV番組「名医とつながる!たけしの家庭の医学」にて「新型腰痛」殿皮神経障害として紹介されて話題になっていた疾患でもあります。その番組で紹介されていた例はかなり重症で、最初は車の乗り降りでのキリで刺したようなズキッとした激しい腰の痛みでしたが、その後寝返りやちょっとした体の動きでも同様な痛みが起こるようになり、次第に両脚の痛みしびれで歩くのもままならなくなってきます。
番組では激痛からの重傷のケースで紹介されていましたが、凝り感ぐらいの軽傷のものもあり、症状の度合いは様々です。
疑問なのは、上殿皮神経はお尻の皮膚の感覚神経なので、この神経の問題だけならば両脚の痛みしびれはおきません。紹介されていた症例ではキリで刺したような激痛で発症しているので、上記の関節機能異常やトリガーポイントが併発しているか、痛みに対して反射による交換神経の強い亢進がおこり、筋肉の緊張と血管収縮がおこることで血流の不足により両下肢症状まで起こったように思います。
いずれにしても腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症と間違えられそうな疾患です。
当院でもたまにみられる疾患ですが、胸腰筋膜は広背筋以外にも内腹斜筋・腹横筋・多裂筋・脊柱起立筋なども関わり、腰方形筋とも接しているので、考慮すべきところは多いのですが臀部と腰の筋肉の緊張がとれれば治ってくる疾患です。
また、似た疾患の中殿皮神経障害というのもあり、これは上殿皮神経より少し下で中央よりの痛みで、やはり多裂筋・脊柱起立筋およびそれを覆う胸腰筋膜をつらぬいているので、これらの緊張が原因となります。
ここで上げたいくつかの問題は腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症と間違えられやすい疾患として上げましたが、それは画像検査でヘルニアや狭窄がみつかってもそれが原因ではないことがある例として上げました。当然腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症と上記その1~4などの問題が両方存在している場合もあり、その場合は両方あるいは順次に対応していくことになります。
そして、画像検査で問題が見つからない場合は、よくある「異常は見当たりません」「骨には異常ありませんね」と言われたり、原因疾患がわからない「坐骨神経痛」と診断される疾患群になります。
参考
関節の痛み-手技による診断と治療法-J.McM.メンネル 科学新聞社