中高年の方の肩の疾患である四十肩・五十肩。ひどくなると肩は激痛で動かせなくなり、さらに夜間痛で寝るのもままならなくなることもあり、つらい疾患です。しかし、治るのに時間はかかるけれども、治療を施さなくても1~2年で自然に治るともよく言われます。実際のところはどうなのでしょうか?江戸時代の文献や海外の研究報告を紹介しつつ治療の必要性をお話します。
五十肩の認識は江戸時代中期の文献、福山藩の漢学者太田全斎の記した「俚言集覧」(りげんしゅうらん)という国語・俗語辞典にもすでに記載されており、その中では「・・・五十歳ばかりの時、手腕、関節痛む事あり、程過ぎれば薬せずして癒ゆるものなり、俗にこれを五十腕とも五十肩ともいう」と書かれており、要するに「自然に治癒」することが書かれています。(ちなみに「肩」に対して「凝る」という表現を使ったのは夏目漱石の「門」に書かれたのが最初と言われていますので「五十肩」という言葉は「肩こり」より古いということですね。)
現代においても、一般的な通説として四十肩・五十肩は「1~2年たてば自然に治る」と認識している方も多くいらっしゃると思います。比較的症状が軽い場合はそのまま治療を受けていなかったり、治療をうけていても日常生活上の不便が少なくなってきたら治療を止めて放置している方もいらっしゃると思います。
しかし、病院や治療院などに行って治療を施さなかったり中途半端に治療を止めてしまった人達の治癒までの期間や予後が実際どうなっているかはデータをとるのが難しい面がありますが、過去の海外の研究報告(1)によると追跡調査の結果、実際の治癒までの期間は個人差が大きく1年~4年と幅がありますが、平均では2年半(当初は18カ月と予想されていたが、それを上回り30.1カ月)と言う結果がでており、しかも、完全な可動域の回復に至るのは39%にしかみられなかったと報告されています。
また別の報告(2)では、発症後7年経過しても50%の人には痛みや可動域制限が残っているという報告もあります。
もちろん、積極的な治療を行っても治癒にある程度の期間を要する疾患ではありますが、肩関節の可動制限や痛みを長く放置すると、関節に無理を強いることになる為、四十肩、五十肩の再発や他の肩関節の疾患の発症リスクを高めます。さらには体の別の部分への動きの過負荷や構造的なバランスの異常にもなるので、肩以外の部位の痛みや違和感などトラブルを生む可能性もあります。積極的な治療によりしっかり改善させることは、さまざまな生活シーンにおけるQOLの向上の為だけではなく、新たなトラブルの予防の為にも重要です。
参照
(1)Reeves B:Scand J Rheumatol. 1975;4(4):193-6.
(2)Shaffer B, et al:J Bone Joint Surg Am. 1992;74(5):738-46.